スーパーマーケットの経営環境と課題 2025
小売業は、経営を取り巻く環境に絶えず適応する必要があります。経営環境の変化を的確に捉え、経営環境がもたらす経営課題に迅速に対応して行くことが必要です。
アスピランツは、スーパーマーケット経営に影響を与える環境要素として、自然環境、経済環境、消費者、競合および雇用の五つを挙げています。
また、スーパーマーケット経営における課題を、マネジメント、マーチャンダイジング、マーケティング、ローコストオペレーションおよびサステナビリティの五つの側面から挙げています。
このように、アスピランツは、個別システム化要請への対応のみならず、コンサルティングからシステム導入に至るワンストップサービスを通して、全体最適を図るしくみとしてのソリューションを提供しています。
自然環境
自然環境については、気候変動、資源枯渇および感染症を挙げています。これらの、スーパーマーケットに与える影響としては、商品調達機能の低下、商品販売機能の損壊、商品需給予測の破綻などが想定されます。
気候変動による需給の変化に対しては、広域の天気予報に留まらず、気象予測サービスプロバイダからの商圏地域情報を加味し、AIを駆使した需要予測システムを構築していく必要があります。また、災害に対しては、食のライフラインを担う者の社会的責任として、店舗損壊などに対するリスクマネジメントに加えて、特定商品の一定量の備蓄を考えていかなければならないでしょう。また、消費者に対して最低3日望ましくは1週間の水と食料の備蓄、ローリングストックを啓蒙していくことも大切です。
資源枯渇に対しては、調達商品の長期的な需給見通しに関する情報を確保していくことが重要ですが、それだけではなく、グロッサリー、日配のみならず生鮮食品においても、リスクを負った生産者との直接買取契約、更には、アパレルのビジネスモデルのひとつである製造小売業(SPA: Specialty store retailer of Private label Apparel)と同様なPB商品開発を目指していく必要があると思われます。また、昨今注目されている野菜栽培の自社工業化、あるいは魚類の陸上養殖も検討されるべき課題ではないでしょうか。
新型コロナウィルス感染症は、ここに来て落ち着きを見せているものの、また新たな感染症が発生する可能性は誰も否定できません。今般のコロナ禍は、企業においても、非接触の為のテレワークが活用され、オフィスの在り方、組織の在り方、そして働き方に対する見直しの起爆剤となりました。リモートワークが余儀なくされたことによって、その実務性が確認され、今後の5Gネットワークの展開と相俟って、地方への機能分散や移住あるいは二拠点生活、ワーケーションの進展がもたらされるとの指摘もあります。いずれにせよ、今般の新型コロナウィルス感染症を契機に、一極集中、企業活動、そしてワーク・ライフ・バランスについて、これまでの在り方は見直されていくものと考えられます。
経済環境
経済環境については、光熱費、物流およびサプライチェーンを挙げています。
原油価格の高騰と円相場の下落などを要因とする光熱費の高騰は業績に大きな影響を与えています。スーパーマーケット白書2024年版によれば、9割近い企業が「事業継続に大きな影響がある」としており、深刻な事態となっています。これらに対しては、EMS(Energy Management System)の採用によって消費電力量を低減させる方策が考えられます。また、自ら太陽光発電などの設備を導入することによって、自給自足体制を構築することも検討される必要があります。
トラックドライバーの働き方をめぐる現状の問題点は、長時間運転、荷待ち時間及び荷役作業が挙げられています。とりわけ加工食品物流においては、短いリードタイム、長時間待機、附帯作業、厳格な日付管理、非効率且つ非合理な悪しき商慣行、小ロット・多品種・多頻度納品が指摘されています。働き方改革環境下で求められる物流を確保するためには、これらの問題を解消していかなければなりません。これらに向けて個別企業は勿論、業界、更に業界を超えた製(製造業)、配(卸売業)、販(小売業)一体となった取り組みが求められます。2024年問題の対応は勿論、物流の効率化に向け官民一体となった取り組みとして、物流データプラットフォーム(Data Platform Construction)協議会の立ち上げが進められています。
自然環境の変化に依る資源枯渇ばかりではなく、世界各地で勃発する戦争、パンデミック、国際法違反国に対する経済制裁などによって、小売業にとってサプライチェーンは極めて不安定なものとなっています。安定的な商品供給を確保するためには、サプライチェーンとサプライヤーの実態把握はもとより、サプライヤーの分散、更には垂直統合に依る供給の確保などによってリスクの分散、低減化が図られなければなりません。また、本来サプライチェーンとは商品が開発されてから消費者に届くまでのプロセス全体を指すものですが、一般的には小売業の店舗に届くまでに限定されています。配送ラストワンマイルの課題、家庭の冷蔵庫までをも対象とするIoTの普及などによって、今後は本来の意味通り消費者までのプロセスを対象と捉えていく必要があるでしょう。
消費者
消費者の変化については、人口動態の側面からのアプローチとして、共働き、単身世帯および高齢化を挙げています。
内閣府の「男女共同参画白書令和4年版」によると、働く夫と専業主婦の世帯は減少し続けていますが、共働き世帯は増加中です。 2001年から2021年までで約1.5倍も増加しており、夫婦のいる世帯全体の約7割にまで達しています。
また、単身世帯は平成27年(2015年)には14%でしたが、令和7(2025年)には16%に達すると予測されています。 これは、10年間で全世帯に対する一人暮らし世帯の割合が7人に1人から6人に1人になるということを示しています。
我国は、1970年に65歳以上の人口が7%を超える高齢化社会に突入しました。その後も高齢化率は急激に上昇し、1994年に高齢社会(同じく14%を超える)、2007年に超高齢社会(同じく21%を超える)となっています。令和6年版の高齢社会白書では、総人口は令和5年10月1日現在1億2,435万人、65歳以上人口は3,623万人、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は29.1%となっており、2070年には、2.6人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上になっていると推計されています。これらが今後益々増加していくことは間違いありません。いずれも、品揃え、サービスなどにおいて対応を意識しなければならないことと言えます。
例えば、共働き世帯に対しては、調理時間の短縮化(食の時短)ニーズが想定されますから、ミールキット、半調理済総菜、惣菜、イートイン、グローサラントなど多様な選択肢の提供が求められ、単身世帯に対しては調理に関する共働き世帯と同様な対応に加えて、販売単位としての個食対応、また、高齢者に対しては総菜に対するスマイルケア対応、買物弱者対応として買物代行、宅配サービス、更に移動販売などが施策として考えられなければなりません。
消費者対応としてのディジタル化は、これまで高齢者を配慮しなければならない為アナログとの併用が求められてきました。然し乍ら、 2025年にはすべての団塊世代が75歳を迎えます。ディジタル・ネイティブとは比較にはなりませんが、後期高齢者はディジタルに対応できないという定説はそろそろ見直していく必要があるものと思われます。
競 合
競合環境の変化については、ドラッグストア、CVSおよび業態革新を挙げています。ドラッグストアのラインロビングの拡大、CVS(コンビニエンスストア)のサービスの強化に加えて、ここ数年次々と出現したスーパーマーケット企業の新たな業態革新を競合として取り上げました。
業態間競争を優位に展開する為には、生鮮食品・総菜の強化、価格競争力の優位性、そしてサービスの拡充が求められます。生鮮食品・総菜の充実はーパーマーケット業態の生命線であり、極言するならば最後の砦として他業態に対する有力な武器です。また、サービスの拡充は、他業態対抗として図られる必要があり、総菜の店内最終調理、宅配サービス、グローサラントなどが挙げられます。
一方、スーパーマーケット企業として、従来の業態としてのスーパーマーケットの範疇に留まることは最早思考停止を意味するものと言わざるを得ません。昨今の、ドラッグストアでは、スーパーマーケット業態の主力商品である食品へのラインロビングを展開しており、グロッサリーに留まらず、既に総菜、生鮮食品へも進出している企業も見受けられます。スーパーマーケット企業が、食われる前に食うのであれば、如何なる方法を執るかは別として、ドラッグストア業態の主力商品・サービスである一般医薬品、健康美容商品、調剤への進出は当然に検討されるべき課題ではないでしょうか。米国のスーパーマーケットにおいては、調剤部門は一般的です。
また、コンビニエンスストア対抗としては、スーパーマーケットとコンビニエンスストアの中間に位置する規模の住宅近隣型小型スーパーマーケットやクイックコマースの為のダークストアなどさまざまな試みが為されています。
ここ数年、 カスミのブランデ、マミーマートの生鮮市場TOP!、ベルクのクルベなどを始め既存スーパーマーケット業態による業態革新としての新たなブランドあるいは店舗が展開されています。これらは、EDLP(Everyday Low Price エブリデー・ロープライス)を徹底的に実現するもの、敢えて時短に対応する惣菜に対して料理の楽しさに向き合うもの、あるいは鮮度を追求した生鮮食品に特化するものなどさまざまです。いずれも、既存のスーパーマーケット業態の殻を破る試みであり、寧ろ他業態との競合より手強いスーパーマーケット業態内の競合ではないでしょうか。
雇 用
雇用環境の変化については、昨今の労働環境の側面からのアプローチとして、人手不足、賃金高騰および働き方改革を挙げています。
15~64歳までの生産年齢人口は、令和2年(2020年)の7,509万人に対し令和8年(2026年)には7,274万人、令和12年(2030年)には7,076万人になると予測されています。人手不足の背景としては、真っ先に少子高齢化による絶対的生産年齢人口の減少が挙げられますが、そればかりではなく、厚生年金、所得税などの優遇制度を適用する為の3号被保険者(サラリーマン世帯の被扶養配偶者)、パートタイマーの自主的就業時間抑制が指摘されています。
人件費の高騰は、これまで正規社員と比較して低賃金であったパートタイマーに適用される最低賃金の上昇、更に働き方改革の規制によって、避けられないものとなってきています。2024年10月の改定により、最低賃金の全国加重平均が2023年より51円高い1,055円になりました。これまで、スーパーマーケットにおいては、正規社員と比べて低賃金であるパートタイマーの採用によって、総人件費を抑制してきた側面があります。しかしながら、パートタイマー比率は、既に飽和状態にあり、パートタイマー化による今以上の人件費の低減を図ることはできません。また、正規社員においても賃上げ促進税制に示されているように政府主導で賃上げが求められており、抜本的な対策を取らない限り今後経営にとってはより厳しい状況となることは間違いありません。
働き方改革における同一労働同一賃金が適用されれば、正社員と比べて低賃金で済むパート社員によって生産性を維持することはできなくなります。同一労働同一賃金は、一律に適用されるわけではなく条件により適用が除外される場合もありますが、パートタイマーの時給を正社員以上の率で上げていかなければならないことは間違いありません。また、社会保険などの企業負担も法制改正により高まることは必至です。
雇用環境に対しては、LSP(Labor Scheduling Program)の精度向上による効率化、AIによる業務支援あるいは代替、ロボットの導入による省力化などを進めると共に、シニアあるいは外国人雇用の拡大を図る環境整備が求められます。また、働き方改革に対しては、まず勤務実態の正確な把握に基づく超過勤務の低減、年次休暇の消化率向上が必要です。
課題
マネジメント CSV経営/パーパス/エンゲージメント
マネジメントについては、CSV経営、パーパスおよびエンゲージメントを挙げています。
CSV(Creating Shared Value)は、日本語では共有価値の創造と訳されています。CSV経営が注目される背景には、SDGsの普及があります。SDGsの制定によって、企業にも社会・環境・経済の問題を解決するための活動が求められるようになりました。CSVは、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)と比較されることがありますが、CSRが結果として求められる社会的責任であることに対して、CSVはそれ自体が経営の目的である点で大きく異なります。CSV経営では、事業を通じて社会問題を解決する社会価値と、事業を行う企業の利益を創出する企業価値のどちらも高められる状況を目指すことが大切だとされています。これからの時代において、評価される企業である為には、CSRを更に進めたCSVが求められます。
パーパスとは、企業の存在意義を指します。自社の社会的な存在意義、即ち何のために存在するのかを明文化し、定めた存在意義に従って経営することです。 そして、多様な価値観を持つ企業の従業員に対して、 企業は何のために存在するのか、企業で働く従業員は何のために働いているのかを明確にすることです。パーパスは、企業にとっての行動指針そのものであり、パーパスが社内に浸透していれば、従業員全員が同じベクトルで仕事を進めていくことができ、意思決定の質や速度も上がっていくでしょう。近年パーパス経営は企業評価の指標となっており、ステークホルダーからの共感や支持を得ることができます。社会貢献を目的とするCSV経営を踏まえ、パーパス経営では”企業がどのような社会貢献の役割を担うか”を明示する必要があります。
エンゲージメントは、企業で働く従業員と企業との繋がりを表す概念です。従業員満足度と並べて論じられることがありますが、個々の従業員が企業から与えられて”満足している”状態と、”自発的且つ主体的に仕事に取り組む”状態は大きく異なります。従業員エンゲージメントは、従業員満足度とは異なり、従業員が企業に貢献する意欲や仕事に対するコミットメントにも影響を与えるため、仕事上の成果に大きな影響をもたらします。従業員が企業を選ぶ理由は、収入、業務内容、役職などだけではなく、経営への共感、人間関係、キャリアプランなど多岐に渡っています。エンゲージメントを意識することにより、始めてやりがいや生きがいといった目に見えない要素をも含めた対応が可能になります。
課題
マーチャンダイジング 品揃え/価格政策/販促
マーチャンダイジングについては、その主要要素として、品揃え、価格政策および販促を挙げています。
品揃えにおいては、他業態のラインロビングに対する差別化として生鮮食品の充実強化が必須です。また、総菜については、家庭料理の代替としてではなく、食の安全・安心と言う見地からの衛生管理の下にプロフェッショナルな調理人を擁し、“家庭で簡単にはできないもの”を提供していかなくてはなりません。そして、買物の楽しさを提供する為には、オープンキッチンによってライブ感を、イートインスペースの併設によって屋台村のようなわくわく感を演出することも求められています。一方、PB 商品については、低価格という路線に留まらない独自商品開発を目指す必要があるでしょう。
適正在庫の確保は、主力商品として生鮮食品を取り扱うスーパーマーケットにおいてはとりわけ重要です。在庫不足による機会損失と過剰在庫による商品廃棄は共に利益を圧迫しますが、後者は企業の社会的責任が問われる課題でもあります。適正在庫を維持するためには、AI を駆使した情報システムとオペレーションシステムをシームレスに連携させた商品自動補充発注システムが求められます。オペレーションシステムは、店内設置カメラ及び重量センサーによって店頭商品の在庫状態をモニターし、バックヤードから商品を自動的に補充するものです。
価格政策においては、 価格重視か品質重視かのいずれにおいても価格に相応しい消費者価値が厳しく問われています。惣菜の閉店時刻に向けた値引設定だけではなく、惣菜に留まらない常時適正価格を維持しうるダイナミックプライシングが求められます。その為には、販売実績に加えて、従来人手によって加味されていた情報の取込みによる AI を駆使した適切な価格設定が前提となります。
販促(インストア・プロモーション)については、非価格主導型として、POP、クロス・マーチャンダイジング、デモ販売を取り上げますPOP については、従来の紙媒体を双方向デジタルサイネージに置き換えることによって、時間帯のみならず通過顧客の反応によってコンテンツを自在に変えることができます。クロス・マーチャンダイジングについては、ID-POSデータの AI による併買商品分析に基づく展開が求められます。デモ販売については、店舗に要員を配置することなく、遠隔地に居る従業員が無人の売場の買物客に対してリアルタイム双方向コミュニケーションによる販売を行うことができるライブ・コマースによる代替ができます。
課題
ローコストオペレーション LSP/AI/ロボット
スーパーマーケットの営業利益率は、スーパーマーケット白書2024年版によれば2023 年実績において平均0.99%と極めて低く、生産性の低さが特徴とさえ言えます。低生産性からの脱却の為には、ローコストオペレーションの推進は欠かせません。また、ローコストオペレーションそれ自体の追求だけでなく、マネジメント、マーチャンダイジング、マーケティングを始めとするあらゆる企業活動において、IT の恩恵を享受することによって生産性の向上を図っていくことが必要です。そして、直ちに導入することが必ずしも得策とは言えないテクノロジーに対しても、その適用に関し継続的に検討する体制を整備することが肝要です。
ローコストオペレーションについては、それを支えるシステムツールの側面から、LSP、AIおよびロボットを挙げています。
LSP(Labor Scheduling Program) は、本来あるべき” 業務に要員を割り当てる” という考え方の実現によって、業務と要員の整合を目的とするものです。就業管理システムと連動させて、予定と実績の突合によってPDCA サイクルを回し、業務と要員双方の適正化を求め、労働分配率の低減と働き方改革を同時に追求することができます。また、勤務シフト編成の自動作成によって、作成業務自体の大幅な省力化が実現できます。
AIを活用し、生産性向上やDXに繋げることが、すべての企業の共通課題となっています。スーパーマーケットにおいても、生産性向上のみならず営業力の強化に向けた積極的な活用が必須です。AIの能力は、2019年では未就学児童程度と言われていましたが、2024年には既に博士課程の学生レベルにまで進化しています。AIにとって次のブレークスルーはAIエージェントです。AIエージェントは、AIモデルが頭脳となり手足を組み合わせた統合システムです。手足となるのは、電子メール、電話、チャットボット、検索エンジン、カレンダーなどばかりではなく受発注システムなど専用アプリケーションにも及びます。AIエージェントが活用されるようになれば、スーパーマーケットにおける業務の在り方は大きく変わっていくものと思われます。
ロボットについては、店内清掃、商品陳列棚案内、宅配への全自動対応などが挙げられます。また、ロボットによる作業者に対する支援として、店頭への品出し、駐車場に置かれたカートの回収、視聴覚障害者などのアテンドなどは実用化段階にあります。
課題
マーケティング ペルソナ/One to One/顧客体験
マーケティングについては、キーワードとして、ペルソナ、One to Oneおよび顧客体験を挙げています。
スーパーマーケットにおいても、小売業一般と同様に、消費者の多様化と競争の激化を背景として、どのような顧客に対応して行くのかという戦略が求められています。スーパーマーケットの取扱商品が食品を始めほぼ最寄り品であることから、これまでは必ずしも明確に顧客像が設定されなかった、あるいは共有されなかったのではないでしょうか。ペルソナは、商品やサービスを利用する典型的な顧客像を意味します。ターゲットも、ペルソナと同じく、商品やサービスのユーザーモデルを指す言葉ですが、両者の違いは、モデルの設定の詳細度にあります。ターゲットに対するペルソナの優位性は、担当者間で共通した人物像を形成することができる点にあります。ペルソナを設定する場合、スーパーマーケットにおいては取扱商品に対する嗜好性が必ずしも高くないことから、複数設定することが適当です。
スーパーマーケットにおいては、これまで折込みチラシ、テレビCMなどに代表されるマス・マーケティングが主流でしたが、スマホの劇的な普及を背景として、One to One マーケティングの要請が高まっています。One to One マーケティングの前提は顧客の ID 化です。顧客の ID 化は小売企業にとってのマーケティングの手段ですが、顧客にとってのメリットが訴えられなければ進展しません。ポイント(FSP)などのインセンティブ、キャッシュレスなど決済手段としての利便性、顧客のベネフィットを追求する情報提供をスマホアプリによって実現することが求められます。
顧客体験 (カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客が商品・サービスに興味を持ち、その商品・サービスを利用するまでの一連の体験です。顧客体験は、顧客接点の集合体です。顧客接点は、実店舗に加え、ECサイト、スマホアプリ、メール、SNS、Web広告など以前よりもはるかに多くなりました。顧客接点は、関心、購入、利用といった企業との接点です。このような顧客接点の増加は、消費者にとってもスーパーマーケットにとっても多くのメリットがあります。このような状況のなかで、より効果的なマーケティング戦略を考えていくためには、顧客体験というものを改めて考え直すことが必要です。
課題
サステナビリティ 食品ロス/EMS/電力創出
サステナビリティは直訳すると持続可能性であり、環境・社会・経済の観点から、今後長期間に渡って地球環境を壊すことなく、資源を使い過ぎず、良好な経済活動を維持し続けることを意味する言葉です。一方、SDGs(エス・ディー・ジーズ、Sustainable Development Goals)は、持続可能な開発目標の略称です。
サステナビリティについては、食品ロス、 EMS(Energy Management System) および電力創出を挙げています。
サステナビリティは、小売商店の規模においては別論ですが、流通企業として成長していく限り、今や避けて通れないテーマです。特に、環境問題に対する取り組みは、それ自体だけではなく、それらに対して積極的な姿勢を顧客のみならず採用予定者などを含む社会に対して表明することが重要です。
食品ロスは、近年社会問題として大きく取り上げられています。スーパーマーケットにおいても、引き続き商品廃棄の最少化に取り組んでいく必要があります。需要予測に基づく的確な補充発注、時間帯別の販売動向に応じた適確な総菜の準備、閉店に向けた迅速な値引判断を実現する仕組みの構築がその前提となります。一方、賞味期限の三分の一ルールの是正など食品ロスをもたらす慣行の是正に協賛することも求めらてれます。
店舗に要する消費電力の削減は、削減効果のあるシステムの導入に対して助成金が設けられていることが示す通り、社会的要請でもあります。店舗内の主要な電力消費設備は、冷凍冷蔵ケース、店内空調及び店内照明です。これらを一元的に管理し、自動制御するEMSを導入することによって消費電力量を低減させることができます。
企業として脱炭素社会への取り組みが要請されています。最近では、廃棄食用油や生ゴミなどを燃料にした再生可能エネルギーの調達が実用化段階にあり、電力の自給だけでなく脱炭素をも実現することができ、一石二鳥の効果が期待されています。イオンモールは、2025年までに全店舗の使用電力を100%再生可能エネルギーとすることを表明しています。また、セブン&アイ・ホールディングスでは、2050年までに自然エネルギー100%へ移行する計画で、自社による太陽光発電の電力を全国の店舗に供給することを始めています。このように、電力需給の逼迫の対応と脱炭素社会の実現として、省エネは勿論のこと、自ら消費する電力の小売企業自らの創出が求められています。